Root One

数学中心のブログです。

微分せずに微分する方法

適当な関数 f(x) について、差分

 \displaystyle \Delta f(x)  := f(x+1) - f(x)

というものを考えます。この関係式で

指数関数に微分演算子を代入 - Root One

の記事でみた式

 \displaystyle \exp \left( \frac{d}{dx} \right)  f(x) = f(x+1)

を適用してみると

 \displaystyle \Delta f(x)  = \left( \exp \left ( \frac{d}{dx} \right) -1\right) f(x)

と書くことができます。関数f(x) を消すと

 \displaystyle \Delta  =  \exp \left ( \frac{d}{dx} \right) -1

という「演算子間」の等式になります。

そして、これを形式的に微分演算子について解くと

 \displaystyle \frac{d}{dx} = \log(1+\Delta)

が得られます。これを適当な関数 f(x) に作用させて書くと

 \displaystyle \frac{d}{dx} f(x) = \log(1+\Delta) f(x) \tag{1} \label{eq:fldt}

となりますが、右辺は

 \displaystyle \log(1+\Delta)f(x) = \left( \Delta - \frac{\Delta^2}{2} + \cdots  \right) f(x)

と計算することにします。

すると、\eqref{eq:fldt} は

微分差分で表現する関係式とみなすことができます。

斬新すぎる議論により \eqref{eq:fldt} を得ましたが、果たしてこれがどれくらい正しいものなのか以下例を見て検証していきたいと思います。

等式の検証

例1. f(x)=x^2 の場合.

\eqref{eq:fldt} の左辺は

 \displaystyle \frac{d}{dx} f(x) = 2x.

\eqref{eq:fldt} の右辺は

\begin{align} \log(1+\Delta) f(x) &= \left( \Delta - \frac{\Delta^2}{2} + \cdots \right) x^2 \\ &= (2x+1) - \frac{1}{2} \cdot 2 \\ & = 2x \end{align}

となり、\eqref{eq:fldt} は正しい等式になります。

 

例2. f(x)= e^x の場合.

\eqref{eq:fldt} の左辺は

 \displaystyle \frac{d}{dx} f(x) = e^x

となります。右辺を計算するために次を調べます。

 \displaystyle \Delta e^x = e^{x+1} - e^x = (e-1)e^x .

一般に

 \displaystyle \Delta^n e^x = (e-1)^n e^x \quad (n \in \mathbb{N})

が成立します。これを用いると \eqref{eq:fldt} の右辺は

\begin{align} \log(1+\Delta) f(x) &= \left( \Delta - \frac{\Delta^2}{2} + \cdots \right) e^x \\ &=   \sum_{n=1}^\infty (-1)^{n-1} \frac{(e-1)^n}{n} e^x \\ & = \log(1+(e-1))e^x \\ &= e^x \end{align}

となりそうですが、収束半径を超えたところなので、これはダメです。

したがって、このケースでは \eqref{eq:fldt} は不成立です。

かわりに f(x)=2^x とすれば同じ議論が正当化されます。

例3. f(x)= \dfrac{1}{x} の場合.

\eqref{eq:fldt} の左辺は

 \displaystyle \frac{d}{dx} f(x) = -\frac{1}{x^2}

となり簡単ですが、難しいのが右辺です。

まず、簡単な計算で

 \displaystyle \Delta \frac{1}{x} =- \frac{1}{x(x+1)}

が確認できます。一般に

 \displaystyle \Delta^n \frac{1}{x}= \frac{(-1)^n n! }{x(x+1)(x+2) \cdots (x+n) } \quad (n \in \mathbb{N})

が成立します。これを用いると \eqref{eq:fldt} の右辺は

\begin{align} \log(1+\Delta) f(x) &= - \sum_{n=1}^\infty  \frac{(n-1)!}{x(x+1)\cdots(x+n)} \end{align}

となります。したがって、左辺と右辺を仮に等しいとして等式で結ぶと

 \displaystyle - \frac{1}{x^2} = -\sum_{n=1}^\infty  \frac{(n-1)!}{x(x+1)\cdots(x+n)}

が得られます。両辺を -x 倍すれば

 \displaystyle   \frac{1}{x} = \sum_{n=1}^\infty  \frac{(n-1)!}{(x+1)(x+2) \cdots(x+n)}

となりますが、これが正しい等式であるかどうかが問題です。

証明.

 \displaystyle   \frac{1}{x} = \sum_{n=1}^\infty  \frac{(n-1)!}{(x+1)(x+2) \cdots(x+n)}

 x >  0 で成立することを示します。

簡単な議論で、自然数 n に対して

 \displaystyle \frac{1}{x} = \sum_{k=1}^{n}\frac{(k - 1)!}{(x+1)(x+2) \cdots(x+k)}+ \frac{n!}{x(x+1)\cdots (x+n)} \tag{2} \label{fskn}

が成立することを帰納法で示すことができます。

右辺第2項ですが、  x >  0 のとき (これは少し難しいですが)

 \displaystyle \frac{n!}{x(x+1)\cdots (x+n)} \to 0  \quad (n \to \infty)

を示すことができるので、\eqref{fskn} において極限を取れば

 \displaystyle   \frac{1}{x} = \sum_{n=1}^\infty  \frac{(n-1)!}{(x+1)(x+2) \cdots(x+n)}

が得られます。

したがって、例3のケースでもxに制限は付きましたが、\eqref{eq:fldt} の成立を確認できました。

まとめ

いつ成り立つかわからない関係式

 \displaystyle \frac{d}{dx} f(x) = \log(1+\Delta) f(x)

を利用して、

\begin{align} \displaystyle   \frac{1}{x} = \sum_{n=1}^\infty  \frac{(n-1)!}{(x+1)(x+2) \cdots(x+n)}  \quad (x>0) \end{align}

という関係式を「予想」して、別の方法で証明しました。

「厳密さ」は重要ですが、それはあくまで証明においてであり、発見法に関しては全く自由です。